2012年6月4日

7/7 第6回日本カンボジア研究会、発表要旨(1)

カンボジア市民社会の政治的役割の再検討
-人権NGO、ADHOCの土地紛争解決への取り組みを事例に-

上村未来(上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科、地域研究専攻、博士後期課程)

本報告の目的は、2000年代後半以降のカンボジアにおいて頻発する土地紛争に対して、カンボジア市民社会がどのように取り組み、政府や民間企業にいかなる影響力を与えてきたのかを明らかにし、市民社会の実態とその政治的役割を検討することである。
カンボジア市民社会の先行研究は、市民社会内部の複雑な実態を十分に考慮しておらず、市民社会が果たす役割を民主化の移行や定着にみているため、民主化の進展のために市民社会が取り組んだ活動が「どうなったのか」という結果を分析することに終始しており、市民社会の側が「何をどのように行なったのか」という過程を十分に論じていない。
報告者は、市民社会の活動の結果に偏重した分析が、市民社会の政府に対する影響力を過小評価してきたことに問題意識を持ち、カンボジア市民社会の実態をより緻密に解き明かし、その政治的役割を再検討する必要があると考えた。
そこで、報告者は2010年3月から約1年間にわたり、カンボジアのNGO、カンボジア人権開発協会(The Cambodian Human Rights and Development Association, ADHOC)の土地・自然資源に関する権利部門の調査活動に携わり、参与観察を行なった。
本報告では、参与観察の結果をふまえ、土地紛争の事例におけるADHOCの活動を中心に紹介する。そして、事例検討の結果として、市民社会の活動が制度の改善などの根本的な解決に直接つながることはなかったが、メディアを介して政府や企業を批判したり、解決を求めたりすることで、援助供与国・機関の関心を引き寄せ続け、間接的な監視体制を構築することができていることを指摘する。そして、それらの活動が、紛争状況の悪化を防ぐ抑止効果の役割を果たしており、市民社会は間接的に政府や民間企業に対して影響力を行使していると結論づける。